私たちの愛するサーモン、その裏側
お寿司やグリル、お弁当のおかずとして、サーモンは日本だけでなく世界中の食卓で愛されています。
その鮮やかな色合いと濃厚なうまみは、誰もが一度は惹かれる魅力がありますよね。
しかし、そんな人気食材の裏側で、深刻な環境問題が進行していることは、まだあまり知られていません。
私たちが普段食べているサーモンの多くは「養殖」によって生産されていますが、その伝統的な方法が海洋環境に大きな負荷をかけているのです。
この記事では、サーモン養殖が抱える課題と、その未来を切り開くための最新の技術革新を、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
1. なぜ問題に?伝統的な「海面いけす養殖」が抱える課題
まずは、現在主流のサーモン養殖法である「海面いけす養殖」が、どのように環境に影響を与えているのかを見ていきましょう。
ノルウェー、チリ、カナダ、タスマニア――。世界各地で盛んに行われていますが、そこには共通する課題があります。
1-1. 海の汚染:食べ残しと排泄物
海に浮かぶ巨大な網のいけすの中で大量のサーモンを育てるこの方法では、餌の食べ残しや排泄物がそのまま海に流れ出してしまいます。
これは、海の中に毎日栄養分(窒素やリン)を過剰に流し込んでいるようなもので、海底にはヘドロのような堆積物がたまり、酸素が奪われていきます。
結果として、底生生物(海底に住む生き物)のすみかが失われてしまうのです。
また、養殖施設で使用される発電機の燃料や輸送によるCO₂排出など、海の外への環境負荷も見逃せません。
1-2. 「海ジラミ」の蔓延と化学薬品の問題
いけすの中では、サーモンが高密度で飼育されています。
この環境は、病気や寄生虫が一気に広がる“温床”になってしまいます。
とくに問題視されているのが「海ジラミ」という小さな寄生虫。
サーモンの体表に取りつき、体力を奪って衰弱させてしまいます。さらに、いけすの外へと広がり、野生のサーモンにまで感染を拡大させることも。
対策として殺虫剤などの薬品が使われますが、これは「化学のいたちごっこ」。
海ジラミだけでなく、エビやカニなど周囲の生物にまで悪影響を及ぼす可能性があります。
1-3. 小まとめ
このように、海面いけす養殖は「海の汚染」や「病気・寄生虫の蔓延」といった問題を抱えています。
しかし今、こうした課題を根本から解決しようという革新的な養殖技術が登場しています。
2. 海から陸へ——「陸上養殖」という革命
環境への負荷を大幅に減らす方法として、近年注目を集めているのが「陸上養殖」です。
その中心にあるのが、**閉鎖循環式陸上養殖(RAS: Recirculating Aquaculture System)**という技術です。
2-1. 魚の“スマートファクトリー” RASとは?
RASは、陸上に設けた巨大な水槽の中で魚を育てる仕組みです。
水質、水温、酸素、餌の量までコンピュータで管理され、まるで「魚のスマートファクトリー」のよう。
最大の特徴は、使用する水が外部の海と完全に隔離されている点です。
水はフィルターで浄化・再利用されるため、ほぼ無限に循環。環境を汚さず、水も無駄にしません。
2-2. 海面養殖 vs. 陸上養殖:どこが違う?
| 課題項目 | 海面養殖の問題点 | 陸上養殖(RAS)の解決策 |
|---|---|---|
| 廃棄物処理 | 食べ残しや排泄物が海に流出し、汚染を引き起こす。 | 廃棄物を回収・処理できる。肥料などに再利用も可能。 |
| 病気と寄生虫 | 海ジラミなどの寄生虫が発生しやすく、野生魚にも感染拡大。 | 海と隔離されており、病原体の侵入を防げる。薬品使用を大幅削減。 |
| 魚の逃亡 | 台風や事故でいけすが壊れると、サーモンが自然に逃げ出すリスク。 | 陸上施設内で完結するため、逃亡リスクはほぼゼロ。 |
2-3. 小まとめ
陸上養殖は、環境負荷を最小限に抑えつつ、高品質な魚を安定供給できる新時代の技術です。
しかし、「技術」だけでは持続可能な未来は作れません。次は、業界全体の取り組みについて見ていきましょう。
3. 持続可能な未来に向けたその他の取り組み
3-1. 「ASC認証」——責任ある養殖の証
スーパーなどで見かける、緑色の魚がチェックマークのように尾を曲げているマーク。
それが「ASC認証(Aquaculture Stewardship Council)」です。
これは、環境と社会に配慮した責任ある養殖業者に与えられる国際的な認証制度。
ASC認証を受けたサーモンは、水質管理や労働環境など、厳しい基準をクリアしています。
つまり、私たちがASCマークの付いたサーモンを選ぶことは、環境にやさしい生産者を応援する行動になるのです。
3-2. 品種改良と政府の役割
技術革新を支えるのは、見えないところで進む品種改良です。
病気に強く、少ない餌で成長できる性質を持つサーモンを選んで育てる「選別育種」が進んでおり、これにより環境負荷の低減と生産効率の向上が期待されています。
また、各国政府も支援を進めています。
たとえばカナダでは、海面いけすから陸上養殖への移行を促す政策が打ち出されました。
国レベルの後押しがあってこそ、産業全体の変革は現実的なものになっていきます。
4. 結論:私たちの選択が、未来の海をつくる
この記事では、サーモン養殖の現状と未来を見てきました。
- 海面養殖は、排泄物による汚染や寄生虫の拡散といった課題を抱える。
- 陸上養殖(RAS)は、それを根本的に解決できる新しい技術。
- ASC認証、品種改良、政府支援といった仕組みが、持続可能な養殖を後押ししている。
これからの時代、**「どんな魚を選ぶか」**という消費者の意識が、海の未来を左右します。
陸上養殖のような技術を応援し、ASC認証のサーモンを選ぶ。
その小さな行動が、豊かな海と食卓を未来へつなげる第一歩なのです。

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